11 July 2023
メタバースプロジェクトが社内に生み出す”新しいコミュニケーション”
インターネット上に構築される仮想空間「メタバース」。言葉は広がりつつあるものの、実際に仮想空間内に身を置いた経験がある人はまだ少ないのではないでしょうか。
コロナを受けてTBWA\HAKUHDOでは新しいワークスタイルとしてハイブリッドワークが定着する一方で、社内における偶発的な会話が減少したり、リアルな場に集まって同時に同じ業務に取り組む機会が減ったりと、社内コミュニケーションやチームビルディングにおける課題がありました。
そこで、2022年に社内コミュニケーションの向上を目的としたメタバースプロジェクトを始動。今年の春には仮想空間のオフィスで避難訓練ができる「THE ESCAPE」の運用をスタートさせ、プロジェクトが活発化しています。
プロジェクトメンバーのクリエイティブディレクター(DisLab/.exp)新目 要、クリエイティブディレクター(DisLab/.exp)鈴木 賢史郎、人事局タレンティズム推進部 部長 二階 晋平に話を聞くと、コミュニケーションと技術、両面の新しさにチャレンジしたストーリーがありました。
新しいコミュニケーションを「メタバース」で。そのためにまず体験してみなければ
Q. 2022年にメタバースプロジェクトが立ち上がったのは、どういう背景からでしょうか。
二階:そうですね。TBWA\HAKUHODOのミッションである「この社会に、意味ある変化をつくりだす」を実現させるためには、社員が成長していくことが不可欠だと考えています。もう少し言うと、自分の得意領域を高めていくことに加えて、領域外へ挑戦し、それを自分の中で掛け合わせることが大切だと考えています。こうした考え方を「Talentism(タレンティズム)」として掲げ、自分はその推進を担っています。我々が仕事でアウトプットするものはアイデアのユニークさに注目がいきがちですが、その裏には個々人がタレントを有効に発揮するための社内コミュニケーションの場がすごく重要だったりします。そういう意味でこれからもユニークなものを生み出すためのコミュニケーションの新しい方法としてメタバースの活用にチャレンジしてみたい思ったのが、このプロジェクトの起点でした。
Q.どんな方々がメタバースプロジェクトに参画したのでしょうか?
鈴木:元々私と新目さんでデジタルを活用したブランディングを行うチーム「.exp(エックスピー)」を立ち上げていました。社内でチームを知ってもらっていく中で、二階さんの経営企画がこのプロジェクトを立ち上げるにあたって、クリエイティブチームと連携したいとなった時に「.exp」でやってみないかと声をかけてもらったんです。ただ人数も必要なプロジェクトだと思ったので、デジタルにあかるいメンバー、映像制作が得意な「DISCO」チームのメンバーなどに入ってもらいました。
新目:実際に開発したものを社内で使ってもらうとなると、メタバース用のヘッドセットも必要です。社内のITチームにも入ってもらって、機材の運用管理面はもちろん、先行的な技術への知見ももらいました。部署を横断したメンバーで取り組んでいます。
Q. メタバースプロジェクトがスタートして、「THE ESCAPE」の開発までにもいくつかの社内施策を行っていますよね。
新目:「THE ESCAPE」に至るまでは、様々なアイディアが出ていたのですが、わりと初期の段階からメタバースだからできることを考えようと思っていて、その中で「災害」というテーマが見えてきました。それをのちのち具体化させていくために、まずは既存のVRアプリケーションを活用してコミュニケーションを良くするための施策などを積み上げていきました。
鈴木:最終的に「THE ESCAPE」がゴールのイメージとしてあったのですが、それを作るには時間がかかってしまうと思ったんです。既に社内にヘッドセットがあったので、社員にメタバースを体験してもらうために他の施策も行いました。
まずは経営陣にメタバースの可能性と課題の両方を体感してもらった方が良いと考えて、メタバース上での経営会議を実施しました。その後は、メタバース上での経営会議に一般社員も巻き込んで、風通しの良い議論を生み出すような場にしていきたいと思い、社長のアバターに一般社員が入り込む「アバター社長」という施策を行い、社長になりきって会社をより良くするための提言をしてもらいました。
二階:メタバースは新しい技術ですが、まずは経営陣に協力的にやってもらえたのが良かったと思います。メタバース空間だからこそのフラットさや、キャラクター化することによって、世代や立場を超えたコミュニケーションを生み出すことができる可能性があると思うのです。
Q. 当初から具体的なゴールのテーマやイメージがありつつ、その大玉の前にメタバースを体験してもらう機会をつくっていったんですね。まずは経営層に体験してもらい、そこから社員にも体験してもらう機会が増えていったのでしょうか?
鈴木:それぞれの施策の様子も録画して、社内向けに報告することで、メタバースオフィスに向けた動きがあることを知ってもらいました。その認知が得られつつある段階で、社内に「VRルーム」を設置しました。ヘッドセットの貸出時にはITチームによるセットアップサポートも必要でしたので、いきなり数十人がメタバースを体験するのは現実的ではないので、会議室にヘッドセットを数台置いて、誰でも体験できる場として使ってもらっていったんです。
二階:当時メタバースはテクノロジーとして話題にはなってきていたものの、チームメンバー全員がメタバースの可能性を信じきれていたわけではなかったというか……体験したことのない人も多くて、ましてや経営陣や一般社員だとなおさらですよね。メタバースの特長として、感覚や身体性の拡張がありますが、それを活かしてコミュニケーション自体も拡張できるのではないかと考えていたのですが、やはり体験してみてわかることが多いです。体験してもらうための認知促進としても、いくつかの施策を行っていました。
メタバースだからこそできるチームビルディングと防災啓発の「THE ESCAPE」
Q. 「体験してみてわかることが多い」ということですが、事前にいくつかの施策を開発したり行ったりする中で気付いて、「THE ESCAPE」の開発に活かされたことはありますか?
鈴木:せっかくメタバースオフィスを作っても強い動機がないと人はわざわざ来ないなと思いました。「ここでコミュニケーションができますよ」というだけではリアルオフィスの劣化版になってしまうだけですよね。
加えて実際に使ってみると、1時間の会議をメタバース上でやるのはしんどいです。酔ってしまったり、ヘッドセットが重かったりするので、短時間でなおかつメタバース上でしか体験できないものを作るのが良いと考えました。オフィスを壊したりするのはメタバースだからできることですよね。
二階:中には酔い止め薬を飲みながら日々開発していたメンバーもいるくらいです。ただ会議をするだけならオンライン会議ツールを使えば、身体的な負担もないですし、メタバースだからこそできることと、現実的にできることのバランスを取る必要があるなと思いました。
Q. チームビルディングと防災意識の向上を目指した「THE ESCAPE」。開発においてこだわった部分を教えてください。
鈴木:チームビルディングにつながるコミュニケーションを目的としているので、チームで使ってもらえるものにすることを大事にしました。普段から一緒に仕事しているメンバーとなら絆が深まるし、今まで話したことのない他部署の人たちとなら、新しいコラボレーションが生まれる機会にもなる。またコロナ禍に入社した社員はオフィスに来る機会もほとんどなかったと思うので、オフィスを知るきっかけにもしてもらいたいと考えて制作していきました。
新目:メタバースだからこそオフィスに装飾ができたり仕掛けをつくったりできると思うんですが、「防災」というテーマだとリアルを追及する意味が出てきます。そのため外部の協力会社にはオフィスの図面や社内を3D撮影したものなどをもとに、忠実な作りこみをしてもらいました。
またオフィスのリアルさだけでなく、メタバースだからこそできる臨場感を出せるようにしました。例えば、オフィス内に展示されているトロフィーが床に落下していたりというような細かな部分を演出して、自分の身に起きたことだと思えるような作りにこだわりました。操作性も試行錯誤しましたが、最終的には誰もが直感的に使えるようにボタン1つで操作できるようにしました。
二階:「THE ESCAPE」内で防災用備蓄品を取りに行かなくてはならないのですが、メタバース上に本当に置いている場所はオフィスで実際に置いている場所と同じです。自分のオフィスのどこに備蓄品があるのかを把握する防災的なポイントと、その場所をフラットな関係で教えあうことでコミュニケーションを取り合えるポイントをつくりました。
Q.「THE ESCAPE」は今年4月から社内の運用がスタートしました。事前施策からここまで、社内からの反応や新たな発見はありますか?
二階:既にやってくれた人の中には、メタバースなど新しい技術に関心の高い社員もいて、今まで体験したことのある他のメタバースコンテンツと比べてリアリティがあるという話をもらいました。昼休みに体験しに来てくれる人もいて嬉しいですね。「今後新しい人が入社したら一緒にやってみたい」というコメントもあって、目指していた活用に近づいています。
鈴木:経営陣の反応も新鮮で、初めてメタバース上での経営会議に集まった時に開口一番笑いあっていたのがとても印象的でした。施策を純粋に楽しんでくれたことが良かったと思います。
新目:「THE ESCAPE」を通して、「備蓄品をまとめて置いておくと、非常時に大人数が同じ場所に殺到してしまう危険があるのではないか」「防災グッズは分散して配置した方が良さそう」という発見もありました。頭の中のシミュレーションや形式的な防災訓練では気付きにくかったかもしれないので、これもメタバースだからこそ見えてきたことです。
新しい技術を活用した”体験”コミュニケーションを目指して
Q. 改めてメタバースの良さを教えてください。また今後の社内の活用や、社外への展開でトライしたいことはありますか?
二階:やはりオンライン会議よりも自然に近い形でコミュニケーションがとれることです。
今年はTBWA\HAKUHODOとしてインターンの受け入れを復活させるので、会社を知ってもらうための一環として使えないだろうかと思っています。もちろん社員の防災意識の啓発活動としても積極的に活用していきたいですね。
鈴木:大人数が一度に話しても聞き取りやすいという良さがあります。オンライン会議とは大きく違う部分なので、その良さを活かすことで今までとは違う効果的なコミュニケーション施策ができる気がしています。
社内研修と一緒に活用してもらえたら効果的かと思っていて、ゆくゆくは他の企業でも研修とメタバース体験をセットにして展開できないだろうかと考えています。
新目:メタバース上だと仮想であっても同じ空間で人の存在を感じられる体験ができるので、会議にとどまらない、”体験”として活かせる取組をこれからもチャレンジしていきたいです。
同じ防災をテーマにした場合も、コンサート会場で災害が起きたら?駅で災害が起きたら?など、公共施設や公共交通機関を想定して”体験”を伴う啓発コンテンツができると思っています。
Q. 最後に、「この社会に、意味ある変化をつくりだす」ために注目している新しい技術を教えてください。
鈴木:今はやはりAI(人工知能)でしょうか。まずは社内でAIを使った取り組みができると良いなと思っています。
二階:メタバースもAR(拡張現実)やAIを組み合わせることで、更なる可能性が期待できるのではないかと思っています。技術を掛け合わせて、更に気軽に体験できるものの開発に挑戦したいです。
新目:メタバースは引き続きプラットフォームとして追求していきたい気持ちがあります。AIのような新しい技術はまだまだ未知数の部分が大きいのですが、そうした技術を使って世の中をどう良くすることができるのかを考えていきたいです。そして、画面の中で完結させるのではなく、あえて立体物として世の中に出していき「意味のある変化」を生み出してみたいとも思います。
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TBWA\HAKUHODOは、これからも、さまざまな技術を積極的に活用し、今までなかったDisruptiveなアイディアと変化を生み出していきます。今後もSTORIESにて私たちのチャレンジについてご紹介していきます。お楽しみに!
広報チーム (koho@tbwahakuhodo.co.jp)