「生理のタブーに、ピリオドを。」ー Peace Pirates 生理休暇プロジェクト

31 May 2022

「生理のタブーに、ピリオドを。」ー Peace Pirates 生理休暇プロジェクト

TBWA\HAKUHODOの中でDEIに熱意を持つメンバーが集まった有志のグループPeace Pirates。(記事はこちら)そのPeace Piratesに所属され、TBWA\HAKUHODOが抱える生理や生理休暇に関する課題を解決するため、「生理休暇プロジェクト」をけん引されてきた大嶋美月さんに、プロジェクトを発足したきっかけ、活動内容、活動を通じた社内の変化から今後の展望まで、お話を伺いました!今回のインタビューでは、同じくPeace Piratesのリーダーのエリック・エレフセン(Eric Ellefsen)さんにもご参加いただきました。

大嶋美月 / Copywriter

「生理のタブーに、ピリオドを。」ー Peace Pirates 生理休暇プロジェクト

1995年生まれ、4年目のコピーライター。東京外国語大学卒。2019年に博報堂入社後、TBWA\HAKUHODOに。ジェンダー課題に対する興味が高く、クライアントワークにもその視点を入れているだけではなく、Peace Piratesのメンバーとして積極的な活動を行っている。
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問題意識は「自分の悩み」から始まる
Q.まずはじめに、大嶋さんが「生理休暇」に興味を持ったきっかけはなんでしょうか?

大嶋: 自身が生理やPMSに悩まされていたことが、一番の理由です。元々症状が重く、社会人になってからも若手ということもあり、生理を理由に休みが取りづらいと思うことがありました。Peace Piratesで「社内での困りごと」に関するアンケートを取ってみると、女性社員から同様の回答が多く、悩んでいるのは自分だけではないんだと気づいて。これは積極的に行動を起こすべき課題なのではないか、と思ったのがきっかけです。

「生理のタブーに、ピリオドを。」ー Peace Pirates 生理休暇プロジェクト

「生理休暇」をより取りやすくー就業規定の定義を見直す
Q. TBWA\HAKUHODOの生理・生理休暇に関する課題に対して、変化・変革を起こされたとお聞きしたのですが、具体的に教えていただけますか?

大嶋: 活動によって社員の生理に対する意識が少しずつ変化していると思いますが、その成果として2022年4月から「生理休暇」の社員規定の定義が改定されたことは、目に見える大きな変革だと考えています。

元々は労働基準法(第68条)で定められている条文を規定に適用していたのを、次の通り改定しました。



改定前:「女性で生理日の就業が著しく困難で休暇の請求があったとき」に特別休暇を与える
改定後:「生理日の就業が著しく困難で休暇の請求があったとき。ここでいう生理日とは、出血期間のみならず、生理前に発症するPMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)も含む」に特別休暇を与える。


労働基準法に定められる生理休暇の条文と、Peace Pirates内での議論内容

労働基準法に定められる生理休暇の条文と、Peace Pirates内での議論内容

国で定められている「生理休暇」の定義では、具体的に「生理日」の定義がされていないため、出血期間を想起される方が多いと思います。しかし実際のところ、辛いのは生理日(出血期間)だけではなく、生理日(出血期間)前のPMS/PMDD※の場合もあるので、そういう時にも対応できるよう、定義を改めました。また、心理的には男性だけれど身体的には女性という方もいらっしゃったりするので、より包括的に休暇を取れるように、(改定前の)「女性で」という文言を削除するなど、内容をアップデートしました。

※PMS(月経前症候群)生理期間が始まる前、長い人では2週間ほど前から症状が起こり、生理が始まるまで続く不調。
PMDD(月経前不快気分障害)PMSの中でも心の不安定さが際立って強く出てしまい、日常生活が全く送れないほど深刻な状態になること。

「生理」についてー知って話し合おう
Q.Peace Piratesの中で「生理休暇プロジェクト」をリードされてきた大嶋さんですが、主にどのような活動をされてきたのでしょうか?

大嶋:「生理について知ってもらう」ことを第一に掲げて活動を行ってきました。具体的な活動としては、生理に関する情報をまとめたメールマガジンの配信や、社内イベントの開催など様々です。生理は、実際に経験しないとなかなか分からない部分も多いことに加えて、人によっても症状は異なります。だからこそ「生理とは?」というところから、実はこんな風に苦しんでいる人がいるといったところまで、生理にまつわるあらゆることを知ってもらう機会にできたらと思って活動しています。女性の中でも「PMS」という言葉をこの活動を通じて知ってくださった人もいるので、このプロジェクトを機に、生理について知ってもらい、色々考えてもらうきっかけになれば嬉しいです。コピーライターの視点から、わかりやすく、伝わりやすい言葉を丁寧に紡ぐように意識しています。

「生理のタブーに、ピリオドを。」ー Peace Pirates 生理休暇プロジェクト

イベントは、これまでに2回開催しました。1回目は、3月8日の「国際女性デー」に合わせて、生理コンテンツを制作している男性クリエイターとのセッションを行いました。なぜ生理というテーマを取り上げたのか、男性目線でどう捉えているかなど、生理についてフラットに知ってもらう機会になったと思います。2回目は、「生理のこと、社長に聞いてみた。」というテーマで今井社長にご登壇いただき、生理用品も扱うブランドの営業担当としての経験談など、より身近な人の生声を聞きながら、生理について考えるイベントを実施しました。

「生理のタブーに、ピリオドを。」ー Peace Pirates 生理休暇プロジェクト

風通しのいい会社・社会づくり

Eric: 生理プロジェクトは当初、美月さんからモチベーション高く、熱い想いとともに提案されたのですが、実際に実施してみるとやはり全社からの反応も良かったんです。いまでは、社長をはじめ、会社全体をまで巻き込み、大きなムーブメントを生み出すプロジェクトとなりました。例えば「ジェンダー問題」を議論しようとすると、課題設定が広いこともあって”平等であるべきだよね”といったように広義な結論に至ってしまうこともあるんです。今回の「生理休暇プロジェクト」では、課題が「生理休暇」と具体的なので、それに対する取り組みや解決策もより具体的に考えることができたと思います。

また、生理休暇だけではなく、風通しのいい会社としての風土に影響を与えてくれることにもつながったと思っています。日本では、生理休暇や男性の育休など、実は古くから法律で守られている制度があるにも関わらず、取得率がなかなか上がらない現状があり、制度を活用して休みを取りづらい空気感をなくしていけるような取り組みはとてもいいなと個人的にも思っていました。

Q.活動をしていく中で特に大変だったことはなんですか?

大嶋: コピーライターとして、言葉の使い方には気をつけています。女性でも生理が来なくて悩んでいる方もいるため配慮を心がけたり、男性には「分かってよ」という押しつけがましいスタンスにならないようにするなど、社内には様々なバックグラウンドを持った方がいらっしゃることを前提に発信しています。センシティブな話題でもあるので、自分の発信した一言で誰かを傷つけてしまうことがないよう、特に言葉選びは慎重に、意識して行っていました。

「生理について話してくれてありがとう」
Q.活動をしていく中で一番嬉しかった時はどんな時ですか?

大嶋: 就業規則がアップデートされたのはもちろん、取り組みに対して、直接言葉をかけていただくことが増えたのが嬉しかったです。特に印象が深かったのは、PMSに悩まれている方から「同じくPMSに悩んでいる方が行動を起こしているのを見て、勇気づけられた」と感想をいただいたことです。自分の発信が人の心を少しでも軽くできたのかなと思い、逆に自分も勇気づけられました。

Eric:Peace Piratesのメンバーにも、役員の方や男性の方から「こういうことに悩まされていたのを知らなかった」と感謝の言葉をいただいたのも印象深く、この活動に携わることができてよかったと思いました。

Q. この活動を行ったことで、TBWA\HAKUHODO社内に感じる変化や反応はありますか?

Eric:これまでタブーとされてきた話題なので、一年の活動で大きく何かが変わるわけではないと考えています。しかし、社長が生理についてオープンにお話をしてくださったりと、普通では考えられないことも、Peace Piratesの熱量を感じてくださったからこそ実現していっているのかなと思います。その熱量が社内にも徐々に伝わって、新しい空気が醸成されてきているようにも感じます。Peace Piratesの活動は草の根レベルの活動でもありますが、それが上層部に伝わり、社内の制度にも変革を起こすことができることは、やりがいにもつながります。

「生理のタブーに、ピリオドを。」ー Peace Pirates 生理休暇プロジェクト

大嶋:また、実際に目に見える変化もあったんです。一連の活動に賛同してくださったワークスタイルイノベーション部が、TBWA\HAKUHODOの女性トイレに生理用品を設置してくださって。急な生理が来てしまった時など、重宝しているメンバーも多いようです。

「アレがきた」ー生理は問題だらけ。
Q. TBWA\HAKUHODOのDisruption®︎の考え方を、どのようにこの活動に活かしていましたか?

大嶋:今回、Disruptionの考え方を「生理のタブーに、ピリオドを。」というスローガンに置き換えて、活動を行ってきました。例えば、同じ出血なのに、なぜ”絆創膏貸して”と同じように”生理用品貸して”と人前でオープンに言うことができないのだろう?など、当たり前やタブーを疑っていくところからはじめました。

Eric: そもそも話すこと自体がDisruptionになっていると思っています。今日この会話の中でも、さっき大嶋さんが言っていた「生理が急に来てしまう」ことがあることすら知らなくて、新たな発見でした。社内の風土を変えるだけではなく、それが最終的には社会を変えることにもつながるといいですね。

Q. 生理について、社会が抱える課題はどういうものがありますか?

大嶋:「生理に関する課題」と一言で言っても、本当にいろんな側面で問題は存在しています。例えば、生理は”女の子の日””アレ”など隠語で語られがちといった身近な問題から、生理の貧困という社会的な問題まで。しかし、それはすべて「生理って恥ずかしいもの」「人前で言っちゃいけないもの」といった「タブー」が根源にあるから生まれている問題なのではないか、と私は考えていて。だからこそ「生理ってこういうものだよ」と正しく知ってもらうことが大切だと考え、THというひとつの会社の本当に小さな一歩ですが、そこから活動をスタートさせたんです。

タブーをなくすクリエイティブの力
Q.生理についてクリエイティブ会社が取り組む意義はどこにあると思われますか?

「生理・女性の健康」の問題にフォーカスし、世界的に注目されたクリエイティブの例:左から、#Bloodnormal、#wombstories、The tampon book

「生理・女性の健康」の問題にフォーカスし、世界的に注目されたクリエイティブの例:左から、#Bloodnormal、#wombstories、The tampon book

大嶋:生理について、まだまだタブーがはびこっているのが現状です。だからこそ「生理って当たり前だよね」という空気を醸成していくために、クリエイティビティは大事だと考えています。例えば社会を変えていく手段として「教育」もありますが、「クリエイティブ」は、より明るく文化を作る力があると思っていて。正しいだけではなく、楽しく伝えることができる。楽しいからこそ、いままで興味を持っていなかったことにも振り向いてもらうことができると思うので、センシティブなトピックであるからこそ、クリエイティブの力を信じたいと思っています。

Eric:この活動をずっと続けていくことにも意義があると思っています。社員の生理への理解が変わっていくことで、クライアントへの提案にも影響して、ひいては世の中に出ていくクリエイティブのアウトプットも変わってきます。社内から変化を起こしていくことに意義があると考えています。

辛い時は、辛いと言える、助け合える社会を目指してー
Q. 最後に、これから、この社会に起こしたい変化について教えてください。

大嶋:「生理」のみならず、広い視野で考えて「辛い時に辛いと遠慮なく言える社会」のために行動していきたいと思っています。広告業界含め、日本社会はどうしても休むことに対して遠慮してしまう雰囲気があると思いますが、「辛い時は休んで良いよ」というチームや社内の雰囲気を作り出すこと、声を掛け合えるような世の中になればいいなと思っています。自分としては、Peace Piratesの活動以外にも、定時に上がることや、一人で抱えられる仕事量を見極め、それ以上は無理をしないなど、小さいことからも取り組むよう心がけています。

Eric:一般的に、中々話せない内容をざっくばらんに話せる環境。他者の視点・実体験を批判無しで聞く社会(会社も含め)。それらをサポートするシステム。これを作って行きたいのがPeace Piratesです。よりオープンな会社・社会の風土が我がエージェンシーだけではなくて、日本をもっともっと魅力的な社会にするのでは?と思っています。全て模索中ですやっていますが、様々なご意見をいただければと考えています!

性・体に関する権利は基本的な人権である
<TBWA\HAKUHODO CEO今井さんコメント>

世界人口の半分の女性が人生の半分の間、毎月経験しなければならない「生理」は、とても身近で当たり前なもの、女性の生活にあまりにも大きな影響を及ぼす存在であるにもかかわらず、生理について語ることは今まで社会的にタブー視されてきたのが現実です。しかし最近スペインがヨーロッパの中で初めて生理休暇を導入、生理用品にかかる税金を廃止することで大きな話題になるなど、昨今多くの国が「性と生殖に対する権利」を「人権」と認識し、ジェンダーヘルス格差を減らす取り組みを始めています。認識の変化に何よりも必要なのは、当然とされる「コンベンション」に対する“創造的破壊“、すなわちDisruption®︎であると信じています。今回、Peace Piratesメンバーが法律に制定されていた生理休暇の内容をさらにわかりやすく解釈し社員規定に反映させたことも、Disruptionのひとつだと考えます。Creativity・Disruption Companyとして、社員のこのような活動をさらに支援し、ダイバーシティやサステナビリティー領域で「社会に意味のある変化を」作り出し続けるよう努力していきたいと思います。これからのPeace PiratesとTBWA\HAKUHODOが世の中に出していく変化にご期待ください。
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今後もPeace Piratesの活動をSTORIESで紹介していきますので、ぜひお楽しみに!

広報チーム (koho@tbwahakuhodo.co.jp)