AOY受賞者インタビュー:Creative Director / Senior Art Director 伊藤 裕平

28 March 2022

AOY受賞者インタビュー:Creative Director / Senior Art Director 伊藤 裕平

昨年12月にCampaign Asia-Pacific誌「Agency of the Year 2021」にて3年連続となる「Best Culture of the Year」を受賞したTBWA\HAKUHODO。クリエイティビティとダイバーシティを促進し、社員が常に才能を最大限発揮し成長できるカルチャーを持つエージェンシーとして評価された当アワードで、Japan/Korea Creative Person of the Yearを受賞したCreative Director / Senior Art Director 伊藤 裕平さんにお話を伺いました!

伊藤 裕平
Creative Director / Senior Art Director

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業後、博報堂入社。2017年よりTBWA\HAKUHODOへ。デザイン力と企画力を武器に、多くのブランドで広告領域を拡張する仕事を生み出し続けている。CANNES LIONS、D&AD、ONE SHOW、CLIO、ADFEST、SPIKES ASIA、iF DESIGN AWARD、RED DOT DESIGN AWARD、ACC賞グランプリ、広告電通賞グランプリ、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、読売広告賞、日経広告賞、グッドデザイン賞、交通広告グランプリ、文化庁メディア芸術祭など、国内外で130以上の受賞歴がある。

アートディレクターの領域の拡大

Q. Japan/Korea Creative Person of the Year の受賞、おめでとうございます!感想をお聞かせ頂けますか?

素直に嬉しいです!TBWA\HAKUHODOからCreative Person of the yearの受賞者は今まで8名いますが、アートディレクター出身としての受賞は珍しいと聞いています。アートディレクターという職種の領域を拡張できたことを評価して頂いたのかな?とも思います。

Q. 本日はそんな伊藤さんのお話をお伺いしていきます。まず、簡単に自己紹介頂けますか。

AOY受賞者インタビュー:Creative Director / Senior Art Director 伊藤 裕平

元々は博報堂でデザイナーとして採用されて様々な企業の広告に携わり、2017年にTBWA\HAKUHODOに異動してきて以来、様々なグローバルブランドやPocket Soap、Hi Toiletなどの案件を担当してきました。
はじめは主にポスターやロゴデザインなど、平面のデザイン周りのみを担当していましたが、ビジュアルを起点にしながら、徐々にプロダクト、公共物、建築、商品そのものなど、ディレクション領域も拡張していき、デザイナー→アートディレクター→クリエイティブディレクターとキャリアを積んできました。

Q. ビジュアルそのものから企画全体というキャリアアップは、先ほどのアートディレクターの領域拡張と重なると思いますが、どのような変化があるのでしょうか?

昔ビジュアルデザインがメインだった時代と比べると、アートディレクター領域は複雑なことが求められるようになってきたと思います。TBWA\HAKUHODOに来てからは特に「アイディアの入口から出口までを考える」ということを学んだし、意識してきました。
広告業界では統合的な仕事ができるクリエイターが求められているし、この度の賞はクリエイティブをリードする人を評価するものなので、自分の領域拡張が評価されたと思うと、自信になります。

Q. そんな中で、今まで特に記憶に残るキャンペーンはどんなものでしょうか?

AOY受賞者インタビュー:Creative Director / Senior Art Director 伊藤 裕平

日産のEVのバッテリーを、震災からの復興を進める浪江町の街灯として再利用する「THE REBORN LIGHT」というプロジェクトですかね。
ステークホルダーがとても多いこともあり、企画書上の一枚絵が実施されるまで3年くらいかかった長期の仕事になったのですが、ライトを実装するだけでなく、ウェブサイト、ムービー、広告制作までを含め、企画から街灯のプロダクトデザインや各所との交渉など、アートディレクターによくイメージされるような枠を超えて様々な業務に携わって、自分の仕事の領域を拡張できたなと思います。社会的意義ある問題に対して、実装までできて今も浪江町に残るような仕事ができたことを嬉しく思っています。

一枚絵でアイディアの統合を図る

Q. 普段の仕事の様子を伺いたいのですが、代表的な一日の流れはどのようなものですか?

TBWA\HAKUHODOは業務時間を自由に調整できる「フレックス勤務システム」があるので、朝は子供と一緒にご飯を食べて、保育園に送って行くなど、家族とのコミュニケーションがメインな時間を過ごしています。
日中は打ち合わせと企画作業、制作作業をそれぞれの案件で行ったり来たりして慌ただしいです。なので、夜に日中確認しきれなかったものを落ち着いてまとめていく作業をすることが多いですね。
帰宅後の時間をインプットに当てていることが多く、入浴中に情報番組を見たり、ながら日経を聞いたりしています。

Q. アートディレクター & クリエイティブディレクターとして、今まで数多く受賞している秘訣や、自分の特別なクリエイティブスタイルを教えて頂けますか?

手を使わず音声で操作する「Hi Toilet」のコンセプトを描いた一枚

手を使わず音声で操作する「Hi Toilet」のコンセプトを描いた一枚

AOY受賞者インタビュー:Creative Director / Senior Art Director 伊藤 裕平

「一枚絵で考える」ということだと思います。
Twitterの投稿アイディアから逆算でCMを考える、みたいな統合的な企画って今では当たり前ですが、数年前までは珍しい考え方で、僕がTBWA\HAKUHODOに来る前はあまり経験がなかったです。でも当時のTBWA\HAKUHODOではそういう仕事が多くありました。アイディアの生み出し方やアートディレクターとしてのスタイルなど、ガラッと変える必要があり、そこで自然と身についたのが「打ち合わせ中に一枚絵に落とし込んでいく」スキルです。
はじめはただ、打ち合わせのまとめとして「つまり絵にするとこういうことですか?」くらいのつもりでスケッチしていたのですが、それを基に関わるチームとすり合わせることで、ビジネスが動き出す感覚が分かってきました。
それがだんだん「一枚絵にできる企画は強い」、逆に言うと、上手く書けない時は「企画がまとまっていないかもしれない」と思うようになりました。TBWA\HAKUHODOはとにかく「アイディア」をピュアに信じるチームで、ワンアイディアで全てを統合していくという良さを持っているので、自分的に一枚絵はアイディアの統合ができているかを検証する手段になっていると思います。

Q. お仕事のスタイルも変わったということですが、伊藤さんにとって、TBWA\HAKUHODOのDisruption®︎(ディスラプション・創造的破壊)はどういうものですか?

30秒で消える可愛いウイルスキャラクター形にすることで「手洗いをエンタメに」変えた石けん「POCKET SOAP」

30秒で消える可愛いウイルスキャラクター形にすることで「手洗いをエンタメに」変えた石けん「POCKET SOAP」

広告クリエイティブはメディアビジネスのおまけ、みたいに侮る議論がどうしても昔からありました。それに対してTBWA\HAKUHODOはDisruptionというものがあるからこそ、アイディアを信じる力が強いと思います。それも”事情を解決する”のではなく、「課題そのものを解決する」アイディアです。
創造的破壊とも言っているのですが、順当に積み上げていった上で思いつくことでなく、横から割り込んでくるような発想をDisruptionと呼んでいて、それを標榜することである意味自分たちへの戒めにしている部分もあると思っています。僕も「これはDisruptionなのか?」と疑問に思うこともよくあるのですが、それを目指さないと「与件さえ満たせればいいや」と堕落してしまうので、甘い罠に陥らない指針だと思っています。

Q. 変化という点で、コロナでクリエイティブ業務はどのように影響を受けましたか?

社内で行った「Disruption School」研修にて「絵本からDisruptiveなインサイトを見つける」テーマで話している伊藤さん

社内で行った「Disruption School」研修にて「絵本からDisruptiveなインサイトを見つける」テーマで話している伊藤さん

良い点は、移動時間が無くなった分、作業や打合せがしっかりできて、細かく進行管理や共有ができていることだと思います。また、場所に縛られないで仕事ができるようになったことでリラックス状態を生み出せるのはプラスに働いていると思います。
一方で、アイディア出しがやりづらいと言われていますが、大きな要因は「効率がいい」からだと思っています。一瞬の無駄、一瞬の偶然性。例えば誰かが打ち合わせに遅刻して来た時の雑談、誰かがちょっと体調が悪そう、その日のいで立ち…。こういうことがアイディアのとっかかりになっていたはずなのに、無駄や偶然がなくなったことで難しくなったんじゃないかと思います。

もちろん精神的な快適さは大切だけど、クリエイティブチームは自慢できるものを創りたいというモチベーションを皆持っていて、それができないとストレスになります。だからこそ、その両立を目指したいと思っていて、今すぐに解決策があるワケではないのですが、例えば初回打ち合わせはリアルで集まるとか、逆に打ち合わせ無しでチャットだけで仕事してみるなど、試行錯誤しています。

Q. 今お話が出たクリエイティブチームですが、どういう人がTBWA\HAKUHODOのクリエイティブチームには多いですか?

大手広告代理店と比較して、少数精鋭なので、各チームが融合しているのが無くしてはいけないカルチャーだと思っています。
だからこそ、建築とか文章、スイーツみたいな興味領域が広い人や自分のやりたい欲を自分の仕事をしながら実行している人が多いんじゃないですかね。複数のカルチャーを持っている人とか多才多能な人がたくさんいてそういう人が輝きやすいチームになっていると思います。

これからのクリエイティブの在り方

Q. 今まで伊藤さんが携わった案件は社会問題に関するプロジェクトが多いですが、特に社会問題への関心が高かったのでしょうか?

「耳が聞こえない人にも、音楽体験を届ける」耳で聴かない音楽会 SOUND-FREE CONCERTのポスター

「耳が聞こえない人にも、音楽体験を届ける」耳で聴かない音楽会 SOUND-FREE CONCERTのポスター

どちらかというと、いろんなお仕事をやらせて頂く中で高くなっていった、と言えると思います。僕が社会人10年目あたりまでは、ただ純粋に「カッコいいものとか話題になるものを作って褒められたいなぁ」くらいの原理原則で動いてはいたのですが、社会課題に関連する仕事に触れるにつれて、自分たちのクリエイティビティを実装して解決に導くためにはどうしたらいいのか、という点にすごく興味は強くなりました。自然とインプットの意識もそちらに向いて、例えば「脱炭素」に関する仕事をしたら、EV関連のクリエイティブってどういうモノがあるんだろう?と紐づけてみたり。もちろんそういった知識がないとクライアントの要望に応えられないというのもありますが、興味とインプットが上手く繋がっていると思います。

Q. 社会問題に対しての「デザイン・クリエイティブの役割」についてもう少し教えてください。

AOY受賞者インタビュー:Creative Director / Senior Art Director 伊藤 裕平

クリエイティブエージェンシーが課題解決のプロフェッショナルであるというのは、シンプルな広告を作っていた時代から変わらないと思います。
脱炭素だけ切り取っても、世界を見渡すと、企業や個人のエゴで終わらず三方よしでサスティナブルなものになっていて、「見た目がカッコいいだけのデザイン」は需要が無くなっているなと感じています。以前から「デザインは機能だ」とは言われていましたが、人類史上最大の課題を前にしてデザインやクリエイティブの本質に立ち返っているのではないでしょうか。

国内に目を向けると、日本のイシューは海外と比べたら弱いから、その解決策も弱い、なんて言われていますが決してそんなことは無くて、超高齢化社会、ジェンダー平等など、浮彫りになっている課題はたくさんあって、シンプルな製品開発だけでは解決できなくなってきています。こういったことにこそ、Disruptiveなアイディア・クリエイティビティが必要なんだと思います。

Q. 最後に、これからの目標やチャレンジしていきたいことを教えてください。

公園の企画とデザインをしてみたいと思っていました。よく家の近くの公園巡りを娘としているのですが、良い公園の周りには良いカフェ、良い人たちが集まって、公園を中心に街ができあがっているなと感じました。という風に考えると、公園をデザインすることは、街をデザインすることでもあるなと。
公園の代表的なUXって遊具とかだと思うのですが、本当に子供の成長に最適なのか。あるいはこれからの超高齢化社会、シニア×子供を意識しないといけないのではないか。例えば今の遊具は子供にはいいけど一緒に来るシニアにはどうなんだろ?とか。公共事業にどうインストールするかハードルは高いと思いますが、ではインストールするためにどういうアイディアが必要なのか。そういったことに関わっていけたらなと思います。


AOY受賞者インタビュー、次は「Japan/Korea Agency Head of the Year」を受賞した、TBWA\HAKUHODOのCEO今井明彦さんのインタビューをお届けする予定です。
次回をお楽しみに!

広報チーム (koho@tbwahakuhodo.co.jp)