スポンサーシップ活用の最前線: マネーフォワード x 横浜F・マリノス 屋外広告が生んだ「共創」の裏側

14 February 2022

スポンサーシップ活用の最前線: マネーフォワード x 横浜F・マリノス 屋外広告が生んだ「共創」の裏側

コロナ禍はスポーツ業界にも大きな影響を及ぼし、観客の熱い声援が響いていたスタジアムは一転、入場者数も応援も制限されてしまいました。加えて、スタジアムに足を運べない人もおり、選手・クラブとファン・サポーターの関係も変化する中で、スポーツクラブへのスポンサーシップ(* 本記事ではパートナーシップと呼びます)についても、スポーツが本来持つ熱量をどのように企業のアクティベーションに生かしていくべきか、その在り方が問われていました。
今回は、その課題に一つのヒントを示す、TBWA\HAKUHODO(以下、TH)企画のスポーツスポンサーシップのアクティベーション事例を紹介します。

株式会社マネーフォワードは、2020年10月20日に横浜F・マリノス(以下、F・マリノス)のトップパートナーになることを発表しました。コロナの逆風真っ只中で始まったパートナーシップですが、だからこそマネーフォワードはF・マリノスのファン・サポーターと積極的かつ継続的にSNSで交流しながら、マリノスファミリーとして良好な関係を築いていきました。

そして、トップパートナー発表から約1年後となる2021年10月16日(土)に、2020年10月21日以来となる「マネーフォワードDAY」が開催されました。この日に向かって、マネーフォワードとTHは、SNSを活用してF・マリノスのファン・サポーターと一緒に作っていく屋外広告(OOH)「#みんなでつくる応援広告」を企画しました。試合開催週の月曜(10月11日)、横浜駅に掲出された広告にはF・マリノス選手の写真と「共に掴もう、5つめの星を。」というコピーだけが載っていました。一見すると、横浜F・マリノスの広告です。

試合開催週の月曜(10月11日)横浜駅に掲出された広告の様子

試合開催週の月曜(10月11日)横浜駅に掲出された広告の様子

しかし、翌日(10月12日)にその広告は更新され、マネーフォワードのロゴが選手の左側に浮かび上がりました。そして、よく見るとそのロゴは、マネーフォワード社員から集められたF・マリノスへの熱い応援のメッセージで作られていました。

10月12日(火)時点の広告の様子

10月12日(火)時点の広告の様子

そして試合前日(10月15日)には、F・マリノスのエンブレムが右側に追加され、広告は完成を迎えます。このエンブレムも、事前にSNSで募集したファン・サポーターからの応援メッセージで作られており、マネーフォワード社員とF・マリノスのファン・サポーター、双方の熱い思いが1つになった広告となりました。

試合前日(10月15日)に掲載された完成版の広告の様子

試合前日(10月15日)に掲載された完成版の広告の様子

その思いが伝わったのか、当日の試合でもF・マリノスの劇的な逆転勝利に。この、スポンサー企業とファン・サポーターが一丸となって生み出したアクティベーション施策について、企画に携わったマネーフォワードのVP of Culture 金井恵子さん、Sponsorship Activation Planner 石戸健さん、THのIntegrated Marketing Director 赤星貴紀さんに、「#みんなでつくる応援広告」のビハインドストーリーと込めた想いについて伺いました。

今回のインタビューに応じた、マネーフォワードのVP of Culture 金井恵子さん、Sponsorship Activation Planner 石戸健さん、TBWA\HAKUHODOのIntegrated Marketing Director 赤星貴紀さん(左から)

今回のインタビューに応じた、マネーフォワードのVP of Culture 金井恵子さん、Sponsorship Activation Planner 石戸健さん、TBWA\HAKUHODOのIntegrated Marketing Director 赤星貴紀さん(左から)

ヒント①「共に」という想いを、サポーターに届ける

今回ファン・サポーターのメッセージを集めた参加型のOOHをやりたいと思った理由は何でしょうか?

金井(MF):サポーターの皆さんと一緒に何かやっていくという「共創するスタイル」は、今回の冠試合に限らず、マネーフォワードの特徴だと思っています。F・マリノスも普段からサポーターを巻き込むことを重視していたり、選手たちも「ファミリー」という言葉をよく口にしていて、それがF・マリノスとマネーフォワードのいい共通点だと捉えていました。それをより打ち出したマネーフォワードDAYにしていきたいと思っていました。冠試合そのものも共創する形にしながら、印象に残る象徴的な何かがほしいなと思って、「一緒につくる広告」はどうかと思ったのが背景でした。

石戸(MF):2019年にF・マリノスが優勝を争っていたとき、横浜駅で実施したリアルタイムの手書き屋外広告が反響を呼んだ例があるのですが、F・マリノスには広告を使ってメッセージを届けたり盛り上げるという文脈があるんだなと思っていました。また、もともとSNSでのファン・サポーターのみなさんとのコミュニケーションにかなり注力してきたんですが、オフラインの施策はまだやったことがなかったので、実際リアルなものになるOOHという形で、パートナーとして僕らの想いとメッセージをお伝えできるんじゃないかと思い、OOHでやりたいと思いました。

2019年に横浜駅に掲出された横浜F・マリノスの広告「リアタイ順位表」

2019年に横浜駅に掲出された横浜F・マリノスの広告「リアタイ順位表」

ヒント②「会社」ではなく「人の顔」が見えるコミュニケーション

マネーフォワードからこのような依頼を受けて、THはどこにポイントをおいてこの企画を組み立てましたか?

赤星(TH):F・マリノスにとって象徴的な場所の一つである横浜駅でメッセージを打ち出したら、注目も集まるだろうし、ファン・サポーターと一緒に盛り上げていけると直感的に思いました。提案にあたっては、「共創する」というキーワードもいただいていたので、一度掲示して終わりではなく、SNSと連携してクリエイティブを更新していけば、「共に創り上げる」ことができるんじゃないかなと考えました。

個人的に、小学生からF・マリノスファンでして、関連するSNSも日常的に追いかけているんです。マネーフォワードさんは普段からソーシャル発信がすごくアクティブで、ファン・サポーターとの結びつきがすごく強いと感じていましたので、今回の企画もその強みを生かしたいと思っていました。
「共創」という言葉はよく言われますが、真の「共創関係」を作るのはなかなか難しいです。スポーツチームの場合、一般的には「パートナーシップを結んだ」と言っても、温度感がなければファン・サポーターからは遠いと感じてしまうんですよね。それに対して、マネーフォワードさんは公式アカウントと並行して、社員さんが実名で発信する方がすごく多いです。そこで企業の中の「人の顔」が見えるので、すごく温度感のある応援が伝わってきて、ファン・サポーターも親近感を感じられていると思うんです。だから、マネーフォワードさんの社員さん1人1人の想いが見えてくるようなやり方ができればと思い、社員さんから集めたメッセージでロゴを作り上げるというアイデアが生まれました。こういう施策をしたときにきっとファン・サポーターの方たちにも好意的に協力してくれるだろうなと感じたので、企画が考えやすかったです。

スポンサーシップ活用の最前線: マネーフォワード x 横浜F・マリノス 屋外広告が生んだ「共創」の裏側

ヒント③ 「パートナー」「ファン・サポーター」「クラブ」の向くベクトルを合わせる

ファン・サポーターやマネーフォワード社員から集まったメッセージの中で、特に記憶に残るメッセージはありましたか?

石戸(MF):実施のタイミング的には優勝は厳しいけれども、ここからさらにもう一回盛り上げて連勝できれば可能性あるよね、という状況だったんですね。なので「諦めないで戦おう」という想いを感じるメッセージがたくさん集まってきて、みんなで頑張って応援しようという空気感を作れたと感じました。

金井(MF):「すべてはマリノスのために」という2019年に優勝したときの合言葉がタイムラインにも溢れてきて、みんなの「諦めないぞ」という熱い想いを表現する場所を作れたのはすごくよかったんじゃないかなと思いました。

スポンサーシップ活用の最前線: マネーフォワード x 横浜F・マリノス 屋外広告が生んだ「共創」の裏側

赤星(TH):マネーフォワード社員の方々の想いが見えたのもすごく嬉しかったですね。社員さんの7歳のお子さんが「まるこすせんしゅ、だいすき」とひらがなで書いてくれてすごく心温まりました。
もう一つは、F・マリノスの社員さんも個人SNSでメッセージを書いてくれたことですね。マネーフォワードのパートナーシップ・コンセプト「Partner Forward, Supporter Forward, Club Forward」を体現できた気がしました。

金井(MF):自分たち以外のパートナーからメッセージをもらえたのも嬉しかったですね。

この企画を実施してファン・サポーター、社員からどのような反響がありましたか?

金井(MF):サポーターの方に、「試合には参加できなかったけど自分も参加している気持ちになれた 」とか「こんなにワクワクする冠試合は初めて」と言っていただけたんです。この「#みんなでつくる応援広告」がなかったら、ここまでの試合前のワクワク感とか試合に向けたみんなの盛り上がりは作れなかったんだろうなと思うので、やってよかったと思いました。

石戸(MF):社員のところでいくと、弊社の経営層から新卒の社員、社員の家族までいろんな人が参加してくれました。「共創する」というのがマネフォ らしい企画だねと言ってもらいました。そういう面でもいい影響を出せたと思いますし、なにより僕らとしても本当に冠試合を盛り上げたいという意志をファン・サポーターのみなさんとクラブに伝えることができてよかったと思います。スポーツビジネス的な観点からも、別のパートナー 企業とか他のスポーツチーム の方からも企画について質問や相談を受けたりしたので、業界的にも注目を得ることができたのかなと思っています。

スポンサーシップ活用の最前線: マネーフォワード x 横浜F・マリノス 屋外広告が生んだ「共創」の裏側

赤星(TH):超個人的なことで言うと、その試合は残り10分を切って逆転して勝ったんですけど、逆転ゴール入ったときに、涙が出ちゃったんです(笑)最後の最後に逆転できる力を呼んだのは、マネーフォワードが、冠試合に向けてすごく盛り上げてくれた思いが伝わっていたからなんじゃないかなと感じていました。

金井(MF):いろんなサポーターさんが「あの試合はマネフォのおかげで勝てた」ということを言ってくださって、そこまで思ってくださるのはすごいことだなと思いました。もちろん勝利はチームの頑張りとサポーターの応援のおかげだと思っているんですが、サポーターのみなさんの心にも残るようなアクションができたのは嬉しいですね。試合後のLINEライブで水沼選手が「今日マネーフォワード DAYだったから絶対に勝ちたかった」と言ってくださっていたので、何かしら選手たちにもパワーになれていたらいいなと思っています。

ヒント④ 「本気でやれば、想いは届く」

今回の企画を経て、スポンサーとしての取り組み方など、マネーフォワードにとって今後に活かしていきたい学びや発見はありましたか?

石戸(MF):今回の冠試合は、「前例のないことをやっていこう」「とにかく本気でやろう」と話していました。冠試合はなかなか関心が持たれづらいものかもしれません が、それを変えたいというくらい本気で取り組むことで、クラブを 盛り上げられるし、ファン・サポーターのみなさんにも価値をしっかり届けられるようになるんじゃないかと思っていたんです。今回、突き詰めて施策をやることでファン・サポーターのみなさんに共感いただけたと思いますし、共創していくスタイルが間違っていないと実感することができました。 また、数値がすべてではありませんが、これまでで一番エンゲージメントが高かったことからも一つの成功事例ができたと思うので、機会があればまた同様の企画にチャレンジしてみたいです。

ヒント⑤ ファンとの関係作りは1日にして成らず

「共創」はスポーツのパートナーシップ(スポンサーシップ)だけでなく、いろいろな場面でキーワードになると思いますが、今回の施策から今後他の仕事に活かせる学びはありましたか?

赤星(TH):効果的な「共創」を生む際に1つ答えとなるのは、やはり「企業・ブランド」という向き合いではなく、その中にいる人が向き合うということなのかなと。やはり生身の人やその思いが見えてくると、よりその企業・ブランドに共感が持てると思うんです。
あともう1つ、今回この企画がうまくいったポイントは、日頃のマネーフォワードさんの積み重ねだと思っています。これまでのファン・サポーターとの関係性があったから、広告施策も盛り上がったわけで、それがないブランドだったら、同じような広告施策だけを企画したとしても多分うまく行かなかったと思うんですね。

そういう意味で、エージェンシー側としては、いきなり大きな施策を持っていくのではなく、まずは今回のように日々の発信から変えていくような提案も必要かもしれません。パートナー企業側の文化をきちんと理解して、その企業の状況に合わせて課題解決策を考えるということなのかなと思います。この企業は、ファン・サポーターとの関係性がどこまでできていて、どこからがチャレンジなのかを見定める。その上で、その会社の文化に合わせたスタイルで、発信や施策をどのように行うべきかを提案する。基本的な姿勢ですが、地道な部分も含めたファンとの関係性作りからサポートしていけるといいなと思っています。

スポンサーシップ活用の最前線: マネーフォワード x 横浜F・マリノス 屋外広告が生んだ「共創」の裏側

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株式会社マネーフォワード プロジェクトメンバー
・VP of Culture 金井 恵子
・Sponsorship Activation Planner 石戸 健

TBWA HAKUHODOプロジェクトメンバー
・Integrated Marketing Director 赤星 貴紀
・Creative Director 藤嶋 童夢
・Art Director 新井 勝也
・Planner 吉田 璃央
・Account Director 水溜 久和
・Media Planner 野村 麻里子
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スポーツやエンタメだけでなく、「消費者」をブランドの「ファン・サポーター」にするコミュニケーションやブランディングはどんな業界でもどんどん重要になってきています。その中で大事なのは、企業がファン・サポーターと普段の親近感のあるコミュニケーションから距離を縮め、「共に創っていく」という熱い想いをベースに、フラットなパートナーシップを築くことだとマネーフォワードDAY「#みんなでつくる応援広告」チームは話しています。

今後もTBWA\HAKUHODOのさまざまなプロジェクトをご紹介していきます。次回をお楽しみに!

広報チーム(koho@tbwahakuhodo.co.jp)