ホタテの廃棄貝殻からできたブルーカーボンテトラポッド「HOTATETRAPOD(ホタテトラポッド)」を発表
19 July 2024
〜世界的な「砂不足問題」解消に向け、廃棄貝殻を砂の代替素材に。砂の使用量が約50%も削減可能に〜
TBWA\HAKUHODOは、北海道猿払村、猿払村漁業協同組合、ササキ、清水建設、甲子化学工業、不動テトラ、日本国土開発と共にプロジェクトチームを組み、水産系廃棄物のホタテ貝殻を再利用した、ブルーカーボンテトラポッド(※1)「HOTATETRAPOD」を発表しました。
※1「テトラポッド」は不動テトラの登録商標
HOTATETRAPOD(ホタテトラポッド)は、テトラポッドに使用する砂の代わりに猿払村のホタテ貝殻を使用することで、砂の消費量を50%まで抑えたサステナブルなテトラポッドです。生物模倣(バイオミミクリー)の考えに基づき、ホタテ貝殻から着想を得たリブ構造をデザインに採用することで、海藻がつきやすくなるため、魚介類の餌場となるだけでなく、海中の炭素を吸収するブルーカーボンの増大を実現しています。まさに、海にも地球にも優しい環境配慮型テトラポッドが誕生しました。
このHOTATETRAPODは、北海道猿払村に記念碑として現在設置されていますが、2024年度以降もひきつづき、北海道オホーツク地方の海岸に設置をするための体制作りを行っていきます。
本プロジェクトチームは、これまで培ってきた建築技術を活かし、ホタテ貝殻を砂に代わる重要な資源として捉え、サステナブルな取り組みをより一層推進していきます。
■「HOTATETRAPOD / ホタテトラポッド」開発背景
1. 国連環境計画(UNEP)が警鐘を鳴らす「サンド・クライシス」(砂の危機)
砂はコンクリートの製造や住宅、道路、インフラ整備などのさまざまな用途で使用され、経済発展には不可欠な資源の1つです。一方、砂を掘り出すことで、海岸などの侵食や塩害、高潮対策の喪失を引き起こす可能性があるほか、生物や環境への影響も危惧されています。
現在、世界各地で発生している都市化の影響や、気候変動により世界では年間約500億トンもの砂が消費されています。砂不足問題は世界的な課題として注目を集める中、建設業界として何ができるかが求められています。
2. 砂の置き換えとして注目される、「猿払村」の廃棄ホタテ貝殻
本プロジェクトチームは、テトラポッドの開発を行っている不動テトラ、「シェルコンクリート」の開発と港湾構造物への適用実積がある日本国土開発、さらには、今回のプロジェクトに先駆け、猿払村の廃棄貝殻から生まれたプロダクト「HOTAMET/ホタメット」を開発した甲子化学工業のノウハウを生かし、この問題を解決することができないかを考えました。
そして注目したのは、国内の水産物の中でも輸出額が最も多いホタテ。猿払村はホタテ水揚げ量日本一に何度も輝く、国内有数の生産地です。一方、猿払村の位置する宗谷地区では、ホタテを加工する際に、水産系廃棄物として貝殻が年間約4万トンも発生。主成分である炭酸カルシウムはコンクリートとの相性も良く、砂程度の粒径に粉砕することで「シェルサンド」として生まれ変わり、テトラポッドに使用される砂の代替素材として活用できることが既往の研究や適用実積からわかりました。
貝殻の本来の役割を生かしながら、廃棄される貝殻を使用し、海岸を守るテトラポッドを作れないか?
そんな着眼点から生まれたのがHOTATETRAPODです。
■「HOTATETRAPOD」の特徴
1. 消波ブロック1つあたりの砂消費を50%削減
猿払村では、年間2480トン(2023年度)の消波ブロックが製造・設置されています。消波ブロックの製造に使われる一般的なコンクリートは、質量の3割程度が砂となり、消波ブロックの製造により、年間約862トンの砂が消費されます。HOTATETRAPODは、コンクリートの細骨材として使われる砂の50%をホタテの廃棄貝殻を粉砕したシェルサンドに置換することによって、砂の使用量を50%削減することができます。この取り組みが普及することによって、猿払村だけでも年間431トンの砂の使用を削減することが可能となります。
2. 通常のテトラポッドと比べ、海藻類が着生しやすい「ブルーカーボンテトラポッド」
HOTATETRAPODは、貝殻から着想を得た、「生物模倣(バイオミミクリー)」をデザインに採用しています。貝殻のリブ構造をデザインに反映することで、リブ構造によって表面積の拡大や稜線長の延長が図られ、海中の炭素を固定する海藻類が着生しやすく、ブルーカーボン固定量の増加に配慮したデザインとなっています。 素材開発から、設計に至るまで、環境への負担が少ない持続可能性に配慮したプロダクトになっています。
3. 通常のテトラポッドと比べ、初期強度が向上
貝殻を使用することで、微粉末効果による初期水和の促進と、炭酸カルシウムと各種カルシウムアルミネートとの反応による初期強度の向上がみられます。
4. HOTATETRAPODの台座は、3Dプリンターから制作
HOTATETRAPODを展示する台座は、廃棄貝殻を添加したモルタルを使用して、3Dプリンターで印刷しました。このモルタルは、清水建設が開発した3Dプリント材料「ラクツム🄬」の砂代替材料として廃棄貝殻を100kg/m3使用した材料です。3Dプリンターを使うことで、廃棄貝殻を自由な形状の部材に再生させることが可能となります。環境に優しく、従来のコンクリートでは表現できない独特のテクスチャの台座を実現することができました。
■プロジェクトメンバー企業の役割
HOTATETRAPOD開発にあたり、様々な会社で協力しています。
・猿払村:土地の提供、テトラポッドの管理
・猿払村漁業協同組合:廃棄貝殻の提供
・ササキ:シェルコンクリートの製造・製品の試作
・清水建設:シェルサンドを活用した3DPマテリアルおよびシェルコンクリートの開発。マテリアルの性能評価
・甲子化学工業:シェルサンドの調達、シェルテックによるプロダクト開発
・不動テトラ:消波ブロック型枠の貸与、消波ブロック製作ノウハウの提供
・日本国土開発:シェルサンドおよびシェルコンクリートの製造ノウハウ提供
・TBWA\HAKUHODO:プロジェクトの全体PR戦略立案
■関係者代表のコメント
猿払村 村長 伊藤 浩一氏
近年、海の砂が減少しており、細骨材などの材料不足などと同時に自然環境問題としても憂慮しておりました。今回、猿払の宝とも言える「ホタテ」貝殻の有効活用として、テトラポッドを開発できたことは持続可能な社会の実現を目指す猿払村にとってもとても有益なことだと考えます。まずは、「さるふつ観光まつり」でのお披露目となりますが、近い将来、HOTATETRAPODを活用していくことを目指していきます。猿払村では、世界の皆様に愛される猿払のホタテの活用に限らず、持続可能な社会の実現に向けた取組みをこれからも模索していきます。
清水建設 生産技術本部 生産技術開発センター長 松本 真一氏
建設業は、衣食住の一部を担い、建築やインフラを通じて気候変動や災害からあらゆる命を守るという社会的に不可欠な役割を果たしています。しかし、建設行為自体は大量のエネルギーを消費し、石や砂などの資源を採掘し、セメント製造時には二酸化炭素を多量に排出するなど、環境に大きな負荷をかけるという相反する側面もあります。私たちは、地球環境を再生しながら建設を進めることで、サステナブルな社会の実現が可能であると信じています。今回の取り組みを、まずは世界で6番目に長い海岸線を持つ日本で広め、やがては世界中の海岸線へと拡大することを目指します。
甲子化学工業 企画開発主任 南原 徹也氏
廃棄ホタテ貝殻を活用したホタメットプロジェクトでは、貝殻を再利用することで地域社会に貢献すると共に、廃棄物の有効活用による新しい未来の在り方を示しました。我々はその後、廃棄貝殻を更に削減すべく、活用先を模索し続けていました。今回、業界や地域の垣根を超えたチームを作ることで、地元産の貝殻を活用した、海にも地球にも優しいテトラポッドを完成させることができました。我々の行動が地域社会をより良くし、更には廃棄物を活用した循環型社会の構築に役立てることを期待しています。今後も前例にとらわれず、更なる廃棄物の活用を実現できるよう、様々なフィールドで挑戦していきます。
TBWA\HAKUHODO Creative Director / PR Planner 橋本 恭輔
ホタテ貝殻の有効活用の取り組み第一弾として、HOTAMETの発表から約2年。第二弾プロジェクト「HOTATETRAPOD」を発表することができました。 今回は、HOTAMETの取り組みを知っていただき、声をかけてくださった清水建設の皆様と一緒にプロジェクトを進行して行きました。そして多くの関係者の皆様に賛同していただいた結果生まれたのが海にも地球にも優しいテトラポッドです。当時のコンセプト「外敵から身を守ってきた貝殻が、今度は人の命を守るものへ」の考えは活かし、これからの時代に必要なものづくりの要素をギュっと詰め込みました。この取り組みを通じて、多くの人に気候変動について関心を持っていただき、社会に広がっていくことを願っています。
【TBWA\HAKUHODO プロジェクトメンバー】
Senior Creative Director 宇佐美 雅俊
Creative Director / PR Planner 橋本 恭輔
Creative Director / Senior Art Director 伊藤 裕平
PR Planner 加藤 卓
Art Director 松田 健志
Designer 砂田 肇
Producer 阪元 裕樹
【制作スタッフ】
Designer 朝長 久裕(スパイス)