手を使わないトイレ−「Hi Toilet」制作秘話

30 November 2021

手を使わないトイレ−「Hi Toilet」制作秘話

今回のSTORIESは、日本財団のTHE TOKYO TOILETプロジェクトの一環で2021年8月にオープンした「七号通り公園トイレ(Hi Toilet)」の制作ビハインドストーリーを紹介します。

TBWA\HAKUHODOのチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)佐藤カズーとクリエイティブチームDisruption Labがデザインした公共トイレ「Hi Toilet」は、オリジナルで開発した音声認識技術を搭載し、ドアの開閉や便器の操作、音楽をかけるなど全ての動作を声で指示する「ボイス・コマンド(Voice Command)」がコンセプトです。

今までの公共トイレは「汚い」と思われがちで、さらに新型コロナウイルスの登場により接触による感染を懸念する声も上がっていました。それに対して、Hi Toiletは誰もがクリーンかつ楽しい時間を安心して楽しめる場所として企画されました。このプロジェクトに込めた想いと制作秘話について、制作を指揮した佐藤カズーさんにお話を伺いました!
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目指したのは、「世界一清潔な公共トイレ」

手を使わないトイレ−「Hi Toilet」制作秘話

Q.「THE TOKYO TOILET」プロジェクトにはどのような経緯で参加されることになりましたか?

日本財団さんからお声がけいただきました。当初はなぜ建築家でなく我々のようなクリエイティブディレクターに?と疑問を持ちましたが、「誰もが快適に利用できる公共トイレを作る」という課題にさまざまなバックグラウンドを持つ人が集まって、それぞれ持ち味を生かして多様なソリューションと答えを出していくことに魅力を感じました。作られるトイレの多様性が今の時代の多様性にもつながるんじゃないかなと思い、自分たちの持っているクリエイティブ力を生かしてデザインしようと参加を決めました。

Q. 「公共トイレの制作」にあたり、目指していたのは何ですか?

今回目指したのは、「世界一清潔な公共トイレ」です。プロジェクトに伴って、いろんな国でトイレに関する定性調査を実施したんです。すると、多くの利用者がレバーを足で踏んで水を流したり、トイレットペーパーや肘を用いてドアを開けたり、おしりでドアを閉めていると答えて、手の接触を極力避けているということがわかりました。日本でも「公共トイレは汚い」と認識されていることが多く、公衆衛生活動が唯一遅れている場所とも言えます。

「触れなくていいトイレ」の実現方法を考えると、例えば足でペダルを踏んでトイレを操作するのを前提にするとか、肘で開けるとか、アナログなアプローチも案として出ていたんですが、ユーザーの多様性を考えてないといけなかったんです。体を使う方法だと例えば車椅子の方など体の不自由な方が排除されてしまうんですよね。なるべく多くの方が快適に利用できる清潔なトイレにするために最終的に「声で話す」という答えにたどり着きました。もちろん話せない方のためにボタンで操作もできるように設計しました。

Q. ボイス・コマンド(音声操作)がコンセプトですが、どのように操作するのでしょうか?

手を使わないトイレ−「Hi Toilet」制作秘話

まず「Hi Toilet」と話をかけると音声認識システムが稼働します。たとえば「扉を開けて」「トイレの水を流して」など、トイレを利用する際に必要となる動作を声で指示して操作することができます。現在は日本語と英語の2か国語で対応しています。

こだわりの真っ白・ドームのデザイン

Q. 「真っ白な」トイレは、公共トイレとしてはとてもユニークなデザインと感じました。

 最初は、白いトイレは汚れやすそうだからあえて真っ黒にするとかも考えていたんですが、やはり清潔の象徴として白に拘りました。落書きされるんじゃない?という懸念もあったんですが、逆にすごく綺麗で美しい建物であれば落書きされづらくなるのではないかと考えました。実際THE TOKYO TOILETプロジェクトでいろんなところにトイレができていますが、そこに訪れるユーザーの方々も「トイレかつアート作品」を楽しむという感覚で、きれいに使おうという意識も高まっているのではないでしょうか。

手を使わないトイレ−「Hi Toilet」制作秘話

Q. ドーム形になっているのも独特で目立つ特徴ですがそこにもこだわりがありましたか?

設計上では、球形のデザインにするのはむずかしいと設計の専門家に言われておりましたが、いろんな理由で「円形の建物」に拘っていました。

まずは「世界一清潔なトイレ」の清潔の象徴にするという意味で、水が一粒ぴたっと落ちるようなフォルムを「クリーンネス」の象徴としてどうしても表現したかったんです。あとは、周りの建物がスクエアになっている中、丸い立体物にした方が存在感があるんじゃないかと思いました。急にトイレに行きたくなったときすぐ見つけられますよね。公園の利用者である家族とか、高齢の方に向けても優しく感じられるように、かわいらしいデザインにしたかったです。

もう一つ大事なポイントとしては「空気」のデザインでした。ドアが閉まったときにわーっと空調がまわって、空気が循環するといいなと思った時に、四角いの建物より丸くなっていることで空気や匂いが滞留しづらくなるのです。毎回トイレの利用が終わるたびに全体的に換気をするシステムを入れているんですが、さらに今回は東大の大学院の研究所の方が研究してくださった独自のデザインによって空気の循環を生み出すことができ、衛生上でもすごく効果的なデザインになりました。

Q. 夜にはライトアップもされるんですね。

ちょっと近未来というか。この音声認識のトイレの体験は人類にとって新しいことだと思いました。なので、円形のライティングが地面に反射され、まるで宙に浮いているような効果をもたらしています。このトイレを見て使ってくださる方も近未来感をテイストしてほしいなと思いましたね。

手を使わないトイレ−「Hi Toilet」制作秘話

「Hi Toilet、音楽を流して」

Q. トイレでいろんな音楽を楽しむこともできますが、音楽システムを搭載した理由は何ですか?

音楽にもこだわりました。「音楽流して」とお願いするとヒップホップ、ロック、クラシックを含め10ジャンルくらいの100曲以上のプレイリストから曲を選ぶことができます。もちろん公共トイレを楽しく利用していただくためのエンタメ的要素も含んでいますが、音姫のような役割もあります。
多くの方がトイレにいる時音を気にしていて、水を流して音を隠すことをしているじゃないですか。それは結構水の無駄な使いになってしまうんですよね。それを水ではなく音楽を音姫として利用してもらったら嬉しいなと思って作りました。

ちなみに「腸いい音楽」も用意しています(笑) 意外と排泄は心理状態にも連関しているようで、例えば旅行に行ったりしたら出にくくなったり、緊張しちゃうと緩くなったりすることもあると思うんですけど、マインドコントロールが排泄に大きい影響があるという記事を読みました。周波数528ヘルツが精神的に安定してくれる周波数だと言われており、リラックスしてこのトイレを利用してもらうことができるように心がけてデザインしました。

「安全な水とトイレを世界中に」

Q. 今後公共トイレがどう変化して欲しいかについて聞かせてください。

SDGsの6番が「安全な水とトイレを世界中に」なんです。公共トイレがあって当たり前の、日本のように豊かな国のトイレがどんどん進化するのももちろんいいですけど、まだ開発国では極めてトイレの問題が大きいです。トイレそのものがあまりなかったり、衛生と安全面でまだ誰もが安心して使えるトイレへのアクセスが不足している国がまだ多いこと、そしてトイレへのアクセスが基本的な人権にも繋がるということを、このプロジェクトに参加してさらに気づくことができました。今後もトイレのSDGsの達成のために少しでも貢献できるようなアイディアを出していきたいなと思うきっかけでした。トイレのコンベンションを破って、もっとサステナブルでコンパクトで、どこにでも建てられるようなトイレというのができたら世界がもっと幸福になるのではと考えました。

手を使わないトイレ−「Hi Toilet」制作秘話

Q. 最後にこのプロジェクトに携わって、今感じていることについて教えてください。

THE TOKYO TOILETは、トイレそのものをアップデートするプロジェクトです。今回のHi Toiletが、「ハイテックですごい」だけではなくて「公共トイレは怖い・使いたくない」という認識が変わるきっかけ、そしてこれからさらにいろんな方々がトイレをどんどんアップデートさせていってくれるきっかけになればいいなと思っています。

新型コロナウイルスの拡大により、非接触、衛生問題がより重要になってきました。ウイルスと戦う21世紀となると思うので、「非接触」ということを「公共性」に持ち込むということはとてもイノベーションとして価値があることだと思っています。そして先ほども話したように、「前の人が綺麗に使えば次の人も綺麗に使う」という性善説の考え方がどんどん広がってだれもが綺麗なトイレにアクセスできるようになってきたら嬉しいです。
素晴らしいプロジェクトに参加できて本当に光栄でした!

THE TOKYO TOILETについて

トイレは日本が世界に誇る「おもてなし」文化の象徴。しかし、多くの公共トイレが暗い、汚い、臭い、怖いといった理由で利用者が限られている状態にあります。本プロジェクトでは、日本財団が渋谷区の協力を得て、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレを区内17カ所に設置します。それぞれのトイレのデザインには、世界で活躍する16人の建築家やデザイナーが参画。優れたデザイン・クリエイティブの力で社会課題の解決に挑戦します。

■「七号通り公園トイレ」紹介ビデオはこちら

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次回もお楽しみに!

広報チーム (koho@tbwahakuhodo.co.jp)